一葉記念公園
この場所では、公園のベンチまで樋口一葉の世界に参加している。
園内で目を引くのは、人力車をかたどったユニークなベンチだ。腰掛けるための設備なのだから、普通のベンチでも役目は果たせる。それをわざわざ人力車にする。そのひと手間が実にいい。座って休んでいるだけなのに、ほんの少し昔の東京へ連れていかれるような気分になる。
公園には「一葉女史たけくらべ記念碑」があり、一葉桜をはじめ、樋口一葉にゆかりのある植物も植えられている。さらに滑り台にも人力車をモチーフにしたイラストが描かれ、歴史を難しい説明だけで伝えるのではなく、遊びの風景へ自然に混ぜ込んでいる。子どもは滑り台で遊び、大人は記念碑に足を止める。同じ場所にいながら、それぞれ違う入口から一葉の世界へ近づけるのが面白い。
隣には一葉記念館があり、公園と一体となって独特の空気をつくっている。樋口一葉は明治の東京を生き、『たけくらべ』などに人々の暮らしや心の機微を描いた作家だ。その作品とゆかりの深い土地で、記念館を訪ね、そのまま公園へ歩いていけば、文学が建物の中だけに収まっていないことに気づく。
記念碑を眺め、一葉桜のそばを歩き、最後に人力車のベンチでひと休みする。ほんの小さな公園なのに、ここでは休憩さえ街歩きの続きになる。急がず腰を下ろしていると、明治の東京が今の街の奥に静かに重なって見えてくるようだった。






