四谷三栄町は、都会の只中にありながら、どこか静かな祝祭の気配をまとった町である。三つの「栄」の字が示すように、かつて町が歩んできた歴史の層が細やかに重なり合い、通りを歩くたびに小さな物語が足元から立ちのぼる。神楽坂へ続く気配を背後に感じつつ、四谷の風がさらりと吹き抜け、道端の植え込みや古い建物の影に、時間のゆらぎが潜んでいる。
路地に入り込めば、昼と夜の境界がゆっくりと溶け、気まぐれな坂の起伏に心が遊ばれる。老舗の看板や控えめな店先がひっそりと佇み、初めて訪れる者をまるで古い知り合いのように受け入れてくれる。都会的な顔つきでありながら、どこか文士の隠れ家めいた雰囲気を醸し出しており、一歩ごとに旅が深まっていく感覚がある。
散策の途中でふと立ち止まれば、この町には過剰な華やかさも、無用な喧噪もないことに気づく。あるのは、日々の営みの中にひそむ静かな輝きだけである。その輝きは、歩く者の心をそっと照らし、いつの間にか町そのものが物語の舞台へと変わっている。三栄町は、何気ない時間がふいに特別へと変貌する、そんな不思議な吸引力を秘めた場所である。
四谷三栄町・町名の遍歴・由来
箪笥町・北伊賀町・新堀江町の3町が合併した際に「三つの町が栄えるように」という願いから三栄町と名付けられたといわれている。
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四谷三栄町 - Wikipedia)