雲梯にぶら下がるという行為には、いつだって重力との密やかな駆け引きが潜んでいる。頭上に並ぶ鉄の横棒は、まるで空へと続く梯子の断片のように連なり、手を伸ばす者を試す。地面から少し浮いたその世界は、日常の常識がふっと緩み、身体の奥底に眠っていた冒険心がそっと顔を出す場所である。
最初の一歩、いや一握り。両手が鉄に触れた瞬間、ひやりとした感触が腕から背筋へと走り、心の準備が整う。足が地面を離れると、世界がすっと静まり、木々のざわめきだけが遠くに聞こえる。ぶら下がった身体は、風に押される雲のように少し揺れ、鉄の棒はそれを優しく受け止める。そこに漂うのは、ただ前へ進むためだけの、静かで清廉な時間だ。
一段、また一段と手を進めるたび、腕に溜まる重さが確かに旅の証となっていく。普段は頼りないと思っていた自分の力が、意外にも健気に働いてくれることに気づく瞬間。身体の動きが棒と棒の間を紡ぎ、まるで空中に自分専用の小さな道が現れたかのような錯覚すら生まれる。途中でそっと振り返れば、ほんの少し高い位置から見える公園の景色が、いつもより鮮やかに思える。
雲梯の良さは、達成と休息がひとつの器に収まっているところにもある。前へ進んでもいいし、その場にぶら下がって風を味わってもいい。無理に走らなくても、ただ揺れながら空を仰ぐだけで、胸の奥がふっと軽くなる。子どもたちの笑い声や、遠くで軋むブランコの音が、不思議と心を柔らかく沈めていく。
雲梯は公園の中で最も静かに、しかし確かに挑戦を語りかけてくる存在だ。そこに触れるたび、自分という冒険者の輪郭が少しずつ整っていく。空に向けて腕を伸ばすその感覚が、日々の疲れを忘れさせてくれる。今日も雲梯は、何も言わずに待っている。あの静かな空中の道へ、もう一度ふわりと旅立つために。
雲梯
金属パイプ製のはしごを横方向にほぼ水平に設置しぶら下がりながら手を伸ばして移動する遊具。ギネスブック認定世界最長の雲梯は兵庫県神戸市のサンシャインワーフ神戸に設置されているもので、全長149.992m。(雲梯 – Wikipedia)
雲梯はいくら?
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