馬引沢

馬引沢に足を向けると、まず谷戸の地形がしずかに身を屈め、訪れた者を抱き寄せるように迎え入れる。長い年月をかけて刻まれた斜面は、ところどころで木々がさざめき、風はその間を縫うように通り抜け、淡い土と緑の匂いを運んでくる。住宅の並びはどこか牧歌的な調子を帯び、まるで丘の暮らしがそのまま旋律になったように穏やかだ。

ゆるやかな坂道を上ると、視界がふっと開け、空が思いがけず大きく広がる。晴れた日には雲がゆっくり流れ、谷の底から聞こえる生活の気配が、遠い昔の記憶のように胸をくすぐる。小道をたどれば、小川の名残りのような低地があり、足元の草がほんの少し揺れて旅人の気配を告げる。

馬引沢は、派手な何かを誇ることはない。それでも、歩くほどに心の底にひそんでいた静かな感性が顔を出し、景色の一つひとつが妙に愛おしく思えてくる。ささやかな地形の陰影が、日常をそっと彩る不思議な谷の町である。

馬引沢の場所

馬引沢・町名の遍歴・由来

馬引沢の地名の由来は、小字沖谷戸(おきのやと)から乞田川へ流れ込む沢(沖ノ谷戸から馬引沢、諏訪坂を経て乞田川へ注ぐ)がこの地域(小字馬引沢)のほぼ中央を南北に貫いており、沢沿いに黒川方面へ抜ける道があったといわれ、この道が馬を降り引いて歩かねばならないほど険しい道であったことが由来と言われている。 また伝承では、馬引沢へ通じる道が連光寺小字本村(ほんむら)からの一本だけであった頃、この道の途中に金色の薬師如来が祭られており、その薬師如来のそばまで来ると馬から降りて馬を引いて通った沢であったことが由来という(馬から降りた理由については複数のパターンがある)。なお、この薬師如来像があったと思われる薬王寺は1966年に火災のため焼失している。 (馬引沢 (多摩市) - Wikipedia)

馬引沢の公園