ブランコとは、人が空を諦めきれなかった頃の名残ではないだろうか。地上に縛られた身でありながら、ほんの少しの揺れで天へ近づけるような気がしてしまう――そんな淡い憧れが、鉄の枠の中に結晶している。公園の片隅、古い木の陰、あるいは住宅街の真ん中。どこにあってもブランコはひっそりと、しかし確かに、その場の空気を軽くしてしまう。
腰を下ろせば、鎖がわずかに震え、背中に冷たい空気がまとう。その静かな予兆は、まるで「さあ、ここから境目が揺らぎますよ」と告げる合図のようだ。足を軽く蹴り出すと、地面があっという間に遠ざかり、視界が前後に大きく開いていく。ブランコに乗るという行為は、まるで斜面に乗った風に包まれるような、懐かしい昂ぶりを呼び覚ます。
前へ、後ろへ。単純で反復的な動作だからこそ、その合間に心のざわめきがほどけていく。都会の喧騒も、日々の義務も、振り子の外へ放り出され、ただ体が空気と一緒に揺れる。その時間は、不思議なほど長く、同時に一瞬だ。揺れの頂点で、世界が少しだけ止まる感覚があり、その静止の気配が、人を子どもの頃の自分へ連れ戻してしまう。
そして降りる瞬間、ふわりと足が地面へ帰る。ほんの少しの寂しさと、胸の奥に灯る微かな余韻。ブランコとは、空と地上のあいだを往復する旅そのものだ。公園を離れるころには、心のどこかが軽くなっている。だからこそ、ふとした午後や沈む夕暮れに、またブランコへ足が向いてしまう。そこには、誰のものでもない小さな空が揺れている。
ブランコ
ブランコは、座板を支柱や樹木から鎖や紐などで水平に吊るした構造の遊具。揺動系遊具に分類される。ポルトガル語の balanço (バランソ、英語のバランスの意)に由来する。(ブランコ – Wikipedia)
ブランコはいくら?