千葉市花見川区に踏み入れると、街そのものが大きな風のうつわになっているようで、どこからともなく爽やかな気配が漂ってくる。花見川の流れは、長い旅の途中でふと詩心を取り戻したようにゆるやかで、川辺を歩く者の足取りまで穏やかに整えてしまう。水面には季節ごとの色がほんのり映り込み、揺らぐ度に小さな物語が生まれては消えていく。
住宅街の並びは整いながらもどこか柔らかく、道端の緑地が街の呼吸を支えている。花島公園やさつきが丘の遊歩道に入れば、緑の香りが濃くなり、迷い込んだ者の心を少しだけ賢者のように落ち着かせる。広がる芝生の上では、時間が緩やかに寝そべり、風の通り道だけが静かに動き続けている。
春には桜並木が淡い光の帯となり、夏には川のせせらぎが涼しさを運ぶ。秋冬の澄んだ空気の中を歩けば、風景そのものが羽根を休めた鳥のように静かに寄り添ってくれる。花見川区は、何気ない日々のなかにふとした旅情を忍ばせてくれる、不思議に心が軽くなる場所である。